●酵素補充療法と早期診断について
遠藤 3 人の先生方から大変貴重なお話を聞かせていただきました。今日のディスカッションの第1 ポイントは、酵素補充療法であろうと思います。埜中先生、酵素補充療法が日本に入って何年になりますか。
埜中 2007 年からですから、9 年になります。
遠藤 ほぼ10 年たって100 例以上の人が治療を受けているという状況は、埜中先生が以前、診療されていたころと全然違いますね。
埜中 全く違います。ポンペ病は治療を諦めていました。
遠藤 諦めていましたか。経験深い埜中先生がそうおっしゃるぐらい治療法のない難病だったという時代から、治療法が出てきたとなると、今日のタイトルにもありますように、早期診断はどう進めればいいのか。早期診断、早期治療が課題ということになると思います。
埜中 2007 年からですから、9 年になります。
遠藤 ほぼ10 年たって100 例以上の人が治療を受けているという状況は、埜中先生が以前、診療されていたころと全然違いますね。
埜中 全く違います。ポンペ病は治療を諦めていました。
遠藤 諦めていましたか。経験深い埜中先生がそうおっしゃるぐらい治療法のない難病だったという時代から、治療法が出てきたとなると、今日のタイトルにもありますように、早期診断はどう進めればいいのか。早期診断、早期治療が課題ということになると思います。
●新生児スクリーニングの意義について
遠藤 いろんな診断のアプローチがあると思いますけれども、中村先生から発表していただいた新生児スクリーニングの意義を、もう一度強調していただけますか。
中村 ライソゾーム病全般に言えることだと思うのですが、症状が進行してしまってから治療すると、治療の効果が限定されてしまうことが多いと思います。ポンペ病の乳児型はそれが特徴的にはっきりあらわれてきていると思いますし、遅発型の患者さんでも、呼吸器症状が進んでしまってからの治療はなかなか難しいと、私どもの症例でも感じているところです。発症前に見つけて治療ができれば、同じ治療をするにしても、患者さんが受ける治療の効果・メリットは、大きく違うと感じています。実際に診断を進める場合、症状がないうちから説明するのは難しいところもあるのですが、その意義が明らかになってきていますので、スクリーニングを行って、早期に診断・治療を進めていくことは大事だと感じているところです。
遠藤 埜中先生、乳児型、小児型は症状が結構出てきやすいので、納得のいく治療が早期に始められると思いますが、遅発型の場合は、スクリーニングで、特に酵素活性、遺伝子で見つかってくると思います。変異から見て、ほぼ遅発型ではないかとか。活性もきちんとはかれば、遅発型と乳児型は区別できるかと思います。
埜中 残存酵素量が違いますからね。
遠藤 筋生検ではどうですか。
埜中 筋生検でも区別がつきます。遅発型はグリコーゲンの蓄積が少ないですから。乳児型は顕著に多いです。
中村 ライソゾーム病全般に言えることだと思うのですが、症状が進行してしまってから治療すると、治療の効果が限定されてしまうことが多いと思います。ポンペ病の乳児型はそれが特徴的にはっきりあらわれてきていると思いますし、遅発型の患者さんでも、呼吸器症状が進んでしまってからの治療はなかなか難しいと、私どもの症例でも感じているところです。発症前に見つけて治療ができれば、同じ治療をするにしても、患者さんが受ける治療の効果・メリットは、大きく違うと感じています。実際に診断を進める場合、症状がないうちから説明するのは難しいところもあるのですが、その意義が明らかになってきていますので、スクリーニングを行って、早期に診断・治療を進めていくことは大事だと感じているところです。
遠藤 埜中先生、乳児型、小児型は症状が結構出てきやすいので、納得のいく治療が早期に始められると思いますが、遅発型の場合は、スクリーニングで、特に酵素活性、遺伝子で見つかってくると思います。変異から見て、ほぼ遅発型ではないかとか。活性もきちんとはかれば、遅発型と乳児型は区別できるかと思います。
埜中 残存酵素量が違いますからね。
遠藤 筋生検ではどうですか。
埜中 筋生検でも区別がつきます。遅発型はグリコーゲンの蓄積が少ないですから。乳児型は顕著に多いです。
●新生児スクリーニングで遅発型は診断可能か?
遠藤 乳児期に生検をして遅発型がわかりますか。
埜中 それはどうかわかりませんね。発症前の筋生検の例はないですから。
遠藤 逆に、グリコーゲンがたまっていれば、それは早期発症型だと言えるということですね。酵素活性が下がっていて、グリコーゲンが溜まっていればいずれは発症すると考えていいわけですね。
埜中 いずれは筋力低下がくるでしょう。
遠藤 筋力低下はグリコーゲンの溜まり具合とほぼ関連していると考えてよろしいでしょうか。
埜中 それは言えます。いつから治療を始めるかが課題ですね。プレクリニカルのときから始めるのか、ある程度症状が出てきてから始めるのか考える必要があります。
遠藤 70 歳で見つかった人に、70 年間治療する価値があったのかと言われると……。難しいですね、全く極端な例ですけど。
中村 スクリーニングをすると、いろんな重症度の人が見つかってきます。だから、より軽症の人たちを、いつから治療したらいいかとか、それまでどうフォローするかは、今から浮かび上がってくる課題だと思う。
埜中 そうですね。現在のところ、日本では、遅発型の人は全員治療を受けています。中村先生が出されたLOTS 試験のように、最初は効果がよいですが、その後プラトーになります。しかし、プラセボ群は呼吸筋がどんどん低下していくので、それを比べてみると、やはり効果があったということになると思います。
実際に、遅発型の人を治療していると、治療効果は筋力低下や呼吸筋の低下がグッと改善するというよりは、去年まで病気の進行でどんどん力が落ちていたのが、今年はそれがそれほどなかった・少なくなったとか、筋痛(筋けいれんなど)がなくなったとか、「薬を使っていて効いていると実感する」とよく言われます。ですから、歩行距離などで差が出なくても、私が治療をしている方はかなり効果を自覚していて、治療を続けたいという方が多いです。そういうLOTS 試験に出てこないようなものが、一人一人にお聞きすると多いです。
遠藤 新生児期に遅発型が見つかったとき、どうすればいいかという何かモデルみたいなものはありますか。
中村 ガイドラインでもそういう患者さんたちをどうするかというのが話題になっていて、いつ発症するか予測できない部分がございます。そういう患者さんをどれぐらいの頻度で定期的にフォローしたらいいかというのは、ある程度話が煮詰まってきていると思います。
遠藤 ただ、CK 値の異常高値があったらどうするかも決めておく必要があると思います。中村先生が紹介された2 例目の人は、それなりに早い発症なのに、臨床的な症状があまり出ていない。でも、CK 値は高い。このような例は新生児期に見つかったとしたら、すぐ治療するしかないですよね。その後の経過を見ると、2 ~ 3 歳で症状が出たわけですから。積極的な治療を心がけていくというのが、あの症例の1 つのメッセージかなと思ったのです。
中村 あれぐらい小さい子はいいですけど、年長児になると、CK 値はいろんなことで、すぐ上がります。そういうのも除外しながら経過を見ていかないといけないという点では、いろいろ難しいところがあると思います。
埜中 それはどうかわかりませんね。発症前の筋生検の例はないですから。
遠藤 逆に、グリコーゲンがたまっていれば、それは早期発症型だと言えるということですね。酵素活性が下がっていて、グリコーゲンが溜まっていればいずれは発症すると考えていいわけですね。
埜中 いずれは筋力低下がくるでしょう。
遠藤 筋力低下はグリコーゲンの溜まり具合とほぼ関連していると考えてよろしいでしょうか。
埜中 それは言えます。いつから治療を始めるかが課題ですね。プレクリニカルのときから始めるのか、ある程度症状が出てきてから始めるのか考える必要があります。
遠藤 70 歳で見つかった人に、70 年間治療する価値があったのかと言われると……。難しいですね、全く極端な例ですけど。
中村 スクリーニングをすると、いろんな重症度の人が見つかってきます。だから、より軽症の人たちを、いつから治療したらいいかとか、それまでどうフォローするかは、今から浮かび上がってくる課題だと思う。
埜中 そうですね。現在のところ、日本では、遅発型の人は全員治療を受けています。中村先生が出されたLOTS 試験のように、最初は効果がよいですが、その後プラトーになります。しかし、プラセボ群は呼吸筋がどんどん低下していくので、それを比べてみると、やはり効果があったということになると思います。
実際に、遅発型の人を治療していると、治療効果は筋力低下や呼吸筋の低下がグッと改善するというよりは、去年まで病気の進行でどんどん力が落ちていたのが、今年はそれがそれほどなかった・少なくなったとか、筋痛(筋けいれんなど)がなくなったとか、「薬を使っていて効いていると実感する」とよく言われます。ですから、歩行距離などで差が出なくても、私が治療をしている方はかなり効果を自覚していて、治療を続けたいという方が多いです。そういうLOTS 試験に出てこないようなものが、一人一人にお聞きすると多いです。
遠藤 新生児期に遅発型が見つかったとき、どうすればいいかという何かモデルみたいなものはありますか。
中村 ガイドラインでもそういう患者さんたちをどうするかというのが話題になっていて、いつ発症するか予測できない部分がございます。そういう患者さんをどれぐらいの頻度で定期的にフォローしたらいいかというのは、ある程度話が煮詰まってきていると思います。
遠藤 ただ、CK 値の異常高値があったらどうするかも決めておく必要があると思います。中村先生が紹介された2 例目の人は、それなりに早い発症なのに、臨床的な症状があまり出ていない。でも、CK 値は高い。このような例は新生児期に見つかったとしたら、すぐ治療するしかないですよね。その後の経過を見ると、2 ~ 3 歳で症状が出たわけですから。積極的な治療を心がけていくというのが、あの症例の1 つのメッセージかなと思ったのです。
中村 あれぐらい小さい子はいいですけど、年長児になると、CK 値はいろんなことで、すぐ上がります。そういうのも除外しながら経過を見ていかないといけないという点では、いろいろ難しいところがあると思います。
●日本のポンぺ病患者の臨床観察をスクリーニングにどのように反映すべきか?
遠藤 日本のポンペ病のスクリーニングでは、乳児型、重症型の高頻度変異がないというところが台湾とは大きく違ってきている。そこは新しい経験を積んでいく分野かなと感じます。
さて、伊藤先生はこれから大きな仕事がありますね。診療体制、特に遺伝相談ですね。先生は前から遺伝病の患者さんの経験を積まれていますけれども、今のところどういう体制を考えていらっしゃいますか。
伊藤 具体的な遺伝相談としては、院内に遺伝相談の外来もありますし、臨床遺伝の分野の先生方と協力していくことになると思います。カウンセリングはしっかりしていただけますので、そこはそちらにお願いします。
あとは重症度をどう判断するか。埜中先生のおっしゃるとおり、なかなか難しいのかなと思っていますが、とりあえず見つかって、それを個別にどう考えていくかということになると思います。
遠藤 本当の遅発型を新生児期に見つけたと言うのはまだ少ないでしょうね。
埜中 台湾は見つけているんですけど、どうしたらいいかわからないというところです。
遠藤 まだ経過観察されているわけですね。変異によって予想がつく部分も、台湾の場合にはあるのでしょうか。
中村 ただ、実際にやってみると、新規の変異も結構出てくるんです。3 次元構造モデルの予測等も含めて考えて予想するというところですね。
遠藤 ちなみに、米国のスクリーニングの結果は今どの辺までわかってきていますか。
中村 あれはミズーリでしたか……。
遠藤 2 年ぐらいの集計がありましたね。やっぱりそんなに多くないという統計でした。アメリカを見渡しても、遅発型をどう扱うかはまだあまり経験がない分野ですね。
埜中 そうですね。ただ、そうなると、症状と筋生検。そういうときになったら、筋生検が必要になるのでしょうね。どこまでやられているかとか、そういうことの総合評価で治療を始めるかどうかになると思います。
遠藤 もう一度何か基本に立ち返った臨床観察をきちんと統合的にやってみるというのを基本にすることが大事かと思います。
埜中 中村先生の出された症例もそうですが、日本は乳児型という重症のものと、それよりちょっと軽い小児型に移行するような例が意外と多いです。そういう例を治療している個別の症例集みたいなものを作ったのですが、皆さん、かなりよくなっています。日本は、いわゆる典型的な乳児例がそんなに多くないのではないかなという気がしています。難しいですね。
遠藤 そうなると、ますますスクリーニングが有効だろうと期待できますね。
埜中 そうですね。ちょっと遅れても治療効果が抜群で、久留米の古賀先生は、幼稚園の運動会で1 位を取った子がいると言っていた。そういう話もあると、すごくうれしくなりますね。
中村 ファブリー病の患者さんは運動が苦手なんです。汗をかかないですし。でも、治療をすると、汗をかくようになって、走れるようになる。私の診ている患者さんはフルマラソンに出られました。今度はポンペ病の患者さんでフルマラソンに出る人が出ないかなと私は思っています。
遠藤 大きな目標ですね。
埜中 そこまでよくなると、うれしいですね。
遠藤 スクリーニングは、熊本の経験もそうですけれども、名古屋も新しく始められるということです。国立成育医療研究センターは前からやっていらっしゃいますし、関東地方でも大規模なスクリーニングの計画があると聞いております。一歩一歩だと思いますけれども、スクリーニングを進めながら、早期診断、早期治療を一人一人の患者さんで実現していければ良いと期待します。今日はどうもありがとうございました。
さて、伊藤先生はこれから大きな仕事がありますね。診療体制、特に遺伝相談ですね。先生は前から遺伝病の患者さんの経験を積まれていますけれども、今のところどういう体制を考えていらっしゃいますか。
伊藤 具体的な遺伝相談としては、院内に遺伝相談の外来もありますし、臨床遺伝の分野の先生方と協力していくことになると思います。カウンセリングはしっかりしていただけますので、そこはそちらにお願いします。
あとは重症度をどう判断するか。埜中先生のおっしゃるとおり、なかなか難しいのかなと思っていますが、とりあえず見つかって、それを個別にどう考えていくかということになると思います。
遠藤 本当の遅発型を新生児期に見つけたと言うのはまだ少ないでしょうね。
埜中 台湾は見つけているんですけど、どうしたらいいかわからないというところです。
遠藤 まだ経過観察されているわけですね。変異によって予想がつく部分も、台湾の場合にはあるのでしょうか。
中村 ただ、実際にやってみると、新規の変異も結構出てくるんです。3 次元構造モデルの予測等も含めて考えて予想するというところですね。
遠藤 ちなみに、米国のスクリーニングの結果は今どの辺までわかってきていますか。
中村 あれはミズーリでしたか……。
遠藤 2 年ぐらいの集計がありましたね。やっぱりそんなに多くないという統計でした。アメリカを見渡しても、遅発型をどう扱うかはまだあまり経験がない分野ですね。
埜中 そうですね。ただ、そうなると、症状と筋生検。そういうときになったら、筋生検が必要になるのでしょうね。どこまでやられているかとか、そういうことの総合評価で治療を始めるかどうかになると思います。
遠藤 もう一度何か基本に立ち返った臨床観察をきちんと統合的にやってみるというのを基本にすることが大事かと思います。
埜中 中村先生の出された症例もそうですが、日本は乳児型という重症のものと、それよりちょっと軽い小児型に移行するような例が意外と多いです。そういう例を治療している個別の症例集みたいなものを作ったのですが、皆さん、かなりよくなっています。日本は、いわゆる典型的な乳児例がそんなに多くないのではないかなという気がしています。難しいですね。
遠藤 そうなると、ますますスクリーニングが有効だろうと期待できますね。
埜中 そうですね。ちょっと遅れても治療効果が抜群で、久留米の古賀先生は、幼稚園の運動会で1 位を取った子がいると言っていた。そういう話もあると、すごくうれしくなりますね。
中村 ファブリー病の患者さんは運動が苦手なんです。汗をかかないですし。でも、治療をすると、汗をかくようになって、走れるようになる。私の診ている患者さんはフルマラソンに出られました。今度はポンペ病の患者さんでフルマラソンに出る人が出ないかなと私は思っています。
遠藤 大きな目標ですね。
埜中 そこまでよくなると、うれしいですね。
遠藤 スクリーニングは、熊本の経験もそうですけれども、名古屋も新しく始められるということです。国立成育医療研究センターは前からやっていらっしゃいますし、関東地方でも大規模なスクリーニングの計画があると聞いております。一歩一歩だと思いますけれども、スクリーニングを進めながら、早期診断、早期治療を一人一人の患者さんで実現していければ良いと期待します。今日はどうもありがとうございました。