ポンぺ病の筋生検について
遠藤  発症頻度が高い台湾と低い日本とは大分違いますね。何が背景にありますか。
埜中  今は診断法が進歩してきましたから、発症頻度に違いがでているのではないかと考えています。
遠藤  これまでポンペ病の筋生検は何例ぐらいされていますか。
埜中 うちは40 例ぐらいですね。
遠藤 それが10 年前ぐらいまで。
埜中 その後は全くなくなりました。
遠藤  筋生検は埜中先生がずっと前からされていて、最近はする例もないということですけれども、ライソゾームにたまっているのは電子顕微鏡までいくのですか。
埜中  いいえ、光学顕微鏡のレベルでわかります。なぜかというと、ライソゾームは酸ホスファターゼの活性も高いのです。酸ホスファターゼ染色をすると、真っ赤になるのです。そこにグリコーゲンがたまってくるので、ライソゾームに蓄積していると分かるのです。
遠藤 ライソゾームが増えていることに合わせているのですね。
埜中  はい。だから、酸ホスファターゼ染色は非常に重要で、ライソゾームにあまり食われていないような成人でも、酸ホスファターゼは結構高いので、鑑別になります。
遠藤  埜中先生が最初におっしゃった「あふれ出たグリコーゲン」は以前、写真を見たことがあって、いつも疑問だったんです。つまり、細胞質に出たら、グリコーゲンは普通に壊されてもいいはずなのに、残っていますよね。ライソゾームの外なのに。やっぱり細胞そのものの障害が進んで、そうなるのですか。
埜中 そうだと思います。ライソゾームの中に取り込まれないで、あふれ出て、それも消化し切れない。
遠藤 普通だと、糖原病Ⅰ型とかでない限り、分解していいはずですけどね。
埜中 量が物すごく多いですから、なかなか消化できないのでしょう。
伊藤  通常の筋組織の中だと、ライソゾームでの糖代謝は、グリコーゲンからグルコースにしてエネルギーを得るというところがかなりの部分を占めているのでしょうか。
埜中 割合大きいところを占めていると思います。
伊藤 組織中のグリコーゲンは、主に細胞質にあるわけではないのですか。
埜中  正常は必ず細胞質の中にあって、ライソゾームの中にはありません。ライソゾームの中に取り入れられたものはほとんど分解されるのでしょう。普通の糖代謝の過程ではそうだと思います。
乳児型患者のCK 値について
中村  ろ紙血の酵素活性をはかっていると、いろいろなところから依頼を受けるのですが、よくFloppy infant の鑑別で、「CKが上がっていないけど、ポンペ病ですか」と尋ねられることがあるのです。CK 値が上がるのは必発と考えてよろしいのですか。
埜中  いいえ、100%ではないです。成人型は、CK 値が割合正常な人もいます。乳児型でも、非常に早期だったら上がらないと思います。ライソゾームにいっぱいたまって、筋肉を圧迫して、筋肉が変性して、CK 値が高くなるわけですから、最初のうちだったらあまり上がらないと思います。しかし、病気に気がついたころの症例は、全部高いです。
中村 筋肉の臨床症状があればCK 値が上がっていることがほとんどなのですね。
埜中 そうです。
乳児型患者の急速な病態の進行について
中村  あと、乳児型は急速に進行する。自然経過を見る機会が私どもはほとんどないので、どれぐらい急速なのかというのは、具体的に何かございますか。
埜中  私は、筋生検をして、診断して、その後をフォローしたことはあまりないんですけど、あれだけの心肥大がありますから、気がついたら呼吸困難とか心不全とかが急速に、月単位でどんどん悪くなって死亡するということになると思います。ただ、いわゆる乳児型でも、少しは残存酵素もあって、そういう人は割合経過がいいということはあります。
中村  台湾での報告で、酵素補充療法の開始が生後1 ヵ月を過ぎるとなかなか症状が改善していかないと言っています。あれぐらい最重症例だと、週単位で予後が変わってしまうという話を聞いて驚きました。
埜中 典型的なのはそうですが、非典型例というか、全部が台湾のケースのようではないと思います。
中村  あともう1 点。日本での症例の特徴で何か違いはございますか。日本で見られるポンペ病は、最重症例は少ないとか、遅発型が多いとか、目立った違いはございますか。
埜中 我々に筋生検を送ってこられて、その後どうなりましたかということをお聞きすると、あまり差はないと思います。
酵素補充療法後の組織評価と筋生検について
伊藤 埜中先生は、酵素補充療法を行ってからの組織の評価を何かされたことはありますか。
埜中  侵襲的ですから診断後は筋生検そのものをなるべく避けている状態です。2 回筋生検するということは、ちょっとできないですね。
遠藤 診断がついた以上、筋生検はもうしないという感じですか。
埜中  酵素補充療法の効果を見るための筋生検はしません。外国では、2 回筋生検をして効果がよかったと報告されていますが、生検する部位によって筋病理所見は全然違いますから、あまりあてにならないでしょう。我々は2 度はしないです。
遠藤 そういえば、何年か前に日本に来てそういう話をする人がいましたね。
埜中 アメリカの方ですね。サンプリングエラーがとても大きいですから、我々はちょっとできない。
遠藤  埜中先生は台湾にも随分通われていました。台湾に行くと「埜中先生の話を聞いた」とよく言われます。埜中先生は、台湾大学でスクリーニングを始める前の台湾の筋生検とかをされていましたか。
埜中  私はしたことはないです。筋生検を始めたのは私の弟子のJong 教授です。最初の頃、ポンペ病はまだ全然見つかっていなかったのです。誰かが見つけて、酵素診断ということで始めたのだろうと思います。
遠藤  世界中でもあれだけ頻度が高い台湾で、埜中先生は随分前から筋生検の指導をされていたのに、当時はポンぺ病は見つからなかったということですか。
埜中 見つかっていないですね。
遠藤  ということは、他の地域でも大事ですね。あれだけ頻度が高い台湾でさえ、臨床症状、生検が普及しても、診断はなかなかできなかったのですね。
埜中 そうです。酵素活性測定による診断で一気にみつかったわけです。
遠藤  台湾は、筋生検が随分普及していたと思います。センター化されていましたからね。最終的には埜中先生に診てもらうと言っていました。埜中先生ありがとうございました。