脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)を対象とした新生児マススクリーニングが、自治体(県)として初めて千葉県で2020年5月から開始されました。
そこで、SMAスクリーニングの推進に重要な役割を果たし、実際の遺伝カウンセリングや治療まで、広く関与し状況を把握されていらっしゃる千葉県こども病院 遺伝診療センター 代謝科 村山 圭先生にSMA治療の現状や患者家族様との状況などについて伺いました。

2020年5月にスタートした千葉県における脊髄性筋萎縮症(SMA)の進展状況について
遠藤 今年5月より、SMAの新生児スクリーニングが千葉県で順調にスタートしました。おめでとうございます。SMAのスクリーニングが日本で一番初めに始まったのが千葉県です。その成果は大きく、村山先生の役割もますます大きくなっていくことと思います。
まだ、患者さんは見つかっていませんか?
村山 そうですね。検査数が2万人を超えてそろそろみつかる頃かなと思っています。
遠藤 台湾や日本の発症頻度をみてもそのような頻度ということですね。

SMAと診断された患者様の、現時点での診断から治療までの千葉県こども病院での診療の流れについて
遠藤 千葉県子ども病院では、SMAの患者さんは何人位おられますか?
村山 SMA患者さんは10人以上います。
遠藤 診断から治療の流れを教えてください。
村山 新生児スクリーニングが実施されていない従来の患者の場合、多くは神経科に紹介となることが多いです。
神経科に紹介になって来院されると、SMAの鑑別が判明してきますので、神経科で遺伝子検査を行い、欠失を見つけ診断されます。その後、遺伝子検査の結果の評価などを含めて、遺伝カウンセリングを、私たち遺伝診療センターが担当することになります。
治療の選択や見通し、治療の流れについては神経科の方で引き続きお願いしています。
遠藤 神経科を受診して、診断して治療開始となるまでに期間としてはどの位かかりますか?
村山 初診の後、遺伝子検査で欠失の結果がでてくるまでの期間は1ヵ月前後です。一番早くて、2週間少しというのがありましたが、基本的には1ヵ月くらいだと思います。
遠藤 ある程度の時間かかりますね。遺伝カウンセリングはどの時点で行うのですか?
村山 診断結果が出たところで、治療の話を神経科で行い、そのあと、遺伝カウンセリングを行いますが、最初は少しずつ始めていきます。
遠藤 遺伝子診断を受けたご家族はどんなご様子でしょうか?
村山 SMAの患者様が遺伝カウンセリングを受けに来るようになったのは、最新の治療法が確立されて以後のことです。
そういう意味で、患者様のご家族には治療法があるということで、遺伝カウンセリングを受ける際には安心感はあるようです。他の難病のようにもやもやしたものがないとでも言えばいいのでしょうか。
遠藤 治療法があると前向きに取りくむことができますね。
村山 そうです。この時期には治療のことでお母さんは頭がいっぱいだと思います。ですから、遺伝の話は少しずつしていきます。
遠藤 遺伝カウンセリングの申し込みに来られて、治療を開始するまで期間としてはどのくらいの時間がかかりますか?
村山 ゾルゲンスマに関しては、院内調整と薬剤オーダーしてから1週間ですから、だいたい2週間程度です。
遠藤 かなり迅速に行われる印象ですね。
村山 診断検査とAAV抗体検査を同時にやって1週間、治療薬の納品まで1週間ですから、だいたい2週間プラスαですね。
遠藤 医療側も製薬メーカー側もすごく迅速かつ順調に進めてそれが実現しているわけですね。
その間に、患者様家族も気持ちの整理や、病気などの知識を吸収して治療にのぞまれているわけですね。
治療法がいま2つあります。ヌシネルセンとゾルゲンスマですが、どちらを選択するかはどのように決定していますか?
村山 当院では神経科の小俣先生にお願いしています。
遠藤 核酸治療薬であるヌシネルセンと遺伝子治療薬であるゾルゲンスマは治療までのプロセスや取り扱いが異なりますが、ゾルゲンスマも2週間程度で治療可能ということなら治療開始までの期間はあまり違いがないということですね。患者様家族からのご理解の得られ方はどうでしょうか?
村山 治療を実際に行うと、患者様もゾルゲンスマの値段が高価なことなどをよく知っていて、しかも治療のことで頭がいっぱいです。ですから、しっかりとした説明は、治療が終わって入院して退院する間に対応するようにしています。
遠藤 患者様家族は治療がうまく行くことを心配しているわけですね。
村山 患者様家族にとっては、AAV抗体検査や治療の準備などのことが多くを占めています。
遠藤 遺伝子治療に対する期待が高いわけですね?
村山 そう思います。患者会の中での情報が充実していると思われます。
遠藤 患者家族同士のピアカンファレンスがうまく進められている様子ですね。遺伝子治療を希望される方は多いですか?
村山 現状では診断された方は全員、遺伝子治療薬を希望されています。

診断直後に実施される遺伝カウンセリングの実態、患者様のご家族のご理解度などについて
遠藤 遺伝カウンセリングではファミリープランニング(家族計画)が大きな位置を占めていますが、こうした新しい治療法が出て来て変化はありますか?
村山 おそらく、治療法が登場する以前では、家族計画の話がカウンセリングの中心になっていたと思います。しかし、現在の治療法の登場で、患者様家族は治療の経過を見守りながら、希望を持たれているようです。安心感があるのだと思います。ですから、あまり、家族計画の話を切り出すということが少なくなっていると思います。がらっと変わったなと実感します。
遠藤 治療法の確立が家族計画にまで影響をもたらしているのはすごいことですね。

症状が出現していない患者様への対応(治療対象となる場合のご両親への説明など)
遠藤 SMAでも症状のない患者さんが診断される場合があります。その場合、家族検索されますよね
村山 そうですね
遠藤 みつかった場合は、患者様はどのようなことをお考えになっているのでしょうか?
村山 今までそういう経験はありません。もしそうなった場合、おそらく新しい治療法があるので、治療についての質問がメインになってくると思います。そうすれば早く分かって、早く治療ができることになります。
遠藤 新生児スクリーニングで診断された時、どういう準備を想定していますか?
村山 他のスクリーニングにもかかわりがあると思いますが、基本的には次の治療の選択肢があり、そのための新生児スクリーニングだという話は患者様家族にはします。その上で、「SMAの可能性があるので調べましょう」とお伝えし、SMAの病態の話や遺伝の話、そして治療の実際の話をするように進めていきます。
遠藤 もう一度、確認しますが、SMAに対するゾルゲンスマの治療は2週間プラスα位で開始できるわけですよね。今までのスクリーニングをみると、その段階でSMAの症状が出ている患者さんが半分位はいるでしょうから、症状が出てきたら治療をするのは納得してもらえるわけですね。
ところで、SMAの新生児スクリーニングをするということを親はどの程度理解しているのでしょうか?
村山 一般的には、新生児スクリーニングにどんな疾患があるかもほとんどわかってないと思います。SMAについても同じかと思います。それほど気にしていることはないと思います。

新生児スクリーニングの認知度や保護者のご意見などについて(患者さんやご家族の声など)
遠藤 SMAの新しい治療と新生児スクリーニングに対する患者様家族のお考えが重要と思います。村山先生には、今後是非、患者様の声を組み上げていっていただきたいと思います。
村山 ありがとうございます。
遠藤 早期診断・早期治療が注目されている中、村山先生が遺伝カウンセリングや治療体制を作っていらっしゃいます。そうしたことが、ほかの地域にも参考になると思います。ですから、これから、村山先生には他の地域を指導するお立場として活躍していただきたいと思います。
千葉県にはいいモデルがあって、遺伝の専門家と神経の専門家とスクリーニングの専門家、治療の専門家がいっしょになって進めています。そうした公的に進めているチームができるというのは重要です。
このいいモデルは千葉にしかありません。その意味で、大変期待しています。
村山 ありがとうございます。がんばって進めていきます。