脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)を対象とした新生児マススクリーニングが、自治体(県)として初めて千葉県で2020年5月から開始されました。
そこで、スクリーニング導入の責任者である公益財団法人ちば県民保健予防財団調査研究、羽田 明先生とともに、その推進に重要な役割を果たし尽力された平成帝京大学健康医療スポーツ学部理学療法学科 教授、高柳 正樹先生に、その開始時やその後のSMA新生児スクリーニングの進展状況などについてWEB会議を用いて伺いました。

千葉県内のSMA患者様の状況(診断や治療に至った症例数など)
遠藤 現在、千葉県にSMA患者は何人くらいでしょうか?
高柳 千葉県こども病院小児神経科によると、Ⅰ型が7例で、スピンラザを使用しているのが5例、ゾルゲンスマを使用しているのが2例でした。Ⅱ型はゼロ。Ⅲ型は1例、Ⅳ型は1例でした。合計で9例です。千葉県こども病院以外では、東京女子医科大学八千代医療センターで1例、千葉大学で2例ということです。東葛地域はよくわかりません。これが半分くらいとすると、千葉県合計で20例くらいのSMA患者がいるのではないかと推定しています。
あくまでも推測ですが、年2人として、10年で20人というところでしょうか。正確によくわからないというのが現状です。
遠藤 見つかった患者様の病型ではⅠ型が多いわけですね。すると、新生児スクリーニングで新たにⅡ型やⅢ型が見つかってくる可能性もありますね。
高柳 そうですね。Ⅱ型は見つかる可能性が高いですね。
遠藤 Ⅱ型、Ⅲ型もスピンラザやゾルゲンスマ(2歳未満の場合)の治療対象になるわけですからね。見つける必要がありますね。10年くらい続けると色々わかってきますね。
高柳 千葉県こども病院小児神経科の話によると、ゾルゲンスマはまだ発売直後ですが、スピンラザについては、早期に治療を開始すればより効果があることを実感しているようです。ですから、ゾルゲンスマはより早期から使用する必要があると思います。

現状の治療に対する理解や要望について
遠藤 高柳先生のご経験として、SMA治療に対する患者様やご家族からの声、期待や不安といったことを少しお聞かせいただければと思います。
高柳 千葉県こども病院小児神経科の先生から聞いたことですが、スピンラザは腰椎穿刺(ルンバール)や脊椎穿刺(spinal tap)を行うことになりますので、最初は怖がるようですが、1度経験すればあとは嫌がるということはないようです。
ゾルゲンスマは投与後、肝機能が低下したり、血小板減少がみられることがあります。その後回復するのですが、患者様は怖がっていると思っていたのですが、患者様の中には、逆に、効果が出ている証だと思っている方もいるようです。注射しても何も起きないよりは、何か起きた方が効果を実感できるということのようです。そういう意味であまり心配はしていません。
遠藤 そういう意味で、ゾルゲンスマへの患者様の期待は大きいわけですね。
高柳 そうですね。スピンラザでは、腰椎穿刺(ルンバール)をする場合、側弯がひどいとやれないということもあります。
遠藤 スピンラザは年齢制限はありませんか?
高柳 早期投与が基本ですが、年齢制限は一応ありません。高校生で最近見つかった患者様がいますが、現在、スピンラザを使用するか検討しているところです。たぶん使用するのだろうと思います。
遠藤 ゾルゲンスマは2歳未満ということですね。ゾルゲンスマを投与した2例というのはまだ投与して間もないということですね?
高柳 投与してまだ2-3ヵ月です。1例目がみつかって、その10日後にもう1例治療しました。それ以降はありません。
遠藤 現存する患者様では、スピンラザやゾルゲンスマの治療は受けているということですね。
高柳 そうです。患者様の状態(側弯等の問題)で治療できないという場合を除き、治療をしたいという患者様はすべてトライアルをしているということです。治療したくないというひとは少なくともいませんね。

2020年5月にスタートした千葉県におけるSMAの新生児スクリーニングの進展状況について
遠藤 2020年5月にスタートした千葉県における脊髄性筋萎縮症(SMA)の進展状況について現時点での陽性者数を教えてください。
高柳 現状では陽性者数はまだゼロです。
遠藤 今年の新生児スクリーニング実施数はどのくらいですか?
高柳 8月まででSMAの新生児スクリーニング実施数は13,756人です。
遠藤 SMAの発症頻度から、そろそろ陽性者がでてもいい頃でしょうか。高柳先生は長年の新生児スクリーニングのご経験がおありですから、見つかるときはすぐ見つかるし、見つからないときはなかなか見つからないということでしょうね。
高柳 かつてPKUが見つかったのも、新生児スクリーニングが始まってから4年位経ってからでしたから。
遠藤 県内産科施設の参加状況とご家族の参加率等についてお聞きします。SMAのスクリーニングの応諾率について教えてください。
高柳 千葉県内で新生児マススクリーンングを実施している施設は115施設です。その中で、SMAのスクリーニングに参加されている施設は103施設、約90%です。
従来のマススクリーニングに参加されている患者数は、8月までで16,977人ですから、SMAについては81.1%になります。
SMAのスクリーニングはすでに行われているマススクリーニングで使用されているろ紙を、千葉県と千葉市から許可をいただいて使用し、無料で実施している上での参加率81.1%という数字です。
遠藤 再度確認しますが、陽性者はゼロですね。
高柳 そうですね。SMAに対する精密検査に至った例もゼロです。再採血もあまりしていない状況のようです。
遠藤 検査としては、クリアに進んでいるのでしょうね。
高柳 そうだと思います。
遠藤 将来的に、SMAスクリーニングを公的助成や公的プログラムのためには、厚労省や千葉県などの行政機関に対して患者様みずからお願いするしか方法はないと思っています。そういう患者様がいらっしゃれば一番いいいですね。
高柳 そうですね。ただ、患者様がまだ、SMAの新生児スクリーニング自体を知らないから、まずそこから始める必要があります。
遠藤 千葉で新生児2万人にSMAスクリーニングが実施されて、SMA患者様がみつかって、治療が1ヵ月以内に実施されて効果がみとめられたというような話題がでてくればもっと注目されていくと思います。
高柳 千葉県では年間4万数千人位の新生児が生まれます。ですから、4万人くらい実施すればSMAは1例はみつかるのではと予想しています。
遠藤 新生児スクリーニングがもたらすSMA診療の発展に期待します。今日は大変有意義なお話をありがとうございました。